初めてのテーブルマナー?

「良いですか、右手にナイフ、左手にフォークを持って……」
 ダンピール(人間と吸血鬼のハーフ)の少女――あるいは幼女――を買った数日後、私は彼女にテーブルマナーを教えていた。
 彼女がどの様な道を選ぶにせよ、いくばかの教養を身に付けておいても、損には成るまい。
「はい、ごしゅじんさま!」
 少女――永久――は、辿々しい手付きながら、ナイフとフォークを操り、ステーキを口に運ぶ。
 しかし……。
「ごひゅりんらま、こにょあとろうするんれしか? (ごしゅじんさま、このあとどうするんですか?)」
 何故か、ステーキを口に入れた所で止まって、そんな事を尋ねて来た。
「音を立てない様に噛んで、飲み込めば良いですよ」
「ひゃい、ごひゅりんらま! (はい、ごしゅじんさま!)」
 何故このタイミングでその様な事を尋ねるのかと、少し疑問に思いながらも教えてやると、永久はおもむろに口を動かし始めた。

 ……永久は、しばらく奮闘していたものの、結局飲み込めずに吐き出してしまった。
「……もしかして、血液以外の物を、飲んだり食べたりした事が無いのですか?」
「はい、ごしゅじんさま!」
 ……この子にとって、食事と言えば血液なのだろう。この様子だと、目の前の物を食物として認識しているのかすら怪しい。
 どうやら、テーブルマナーの前に、固形物の飲み込み方から教えなくてはいけない様です。……離乳食でも用意しましょうか?

――ルーツ・永久