かにばりずむ(三周年記念?)

 それは、何時もの様に永久に血を与えていた時の事。
 私の首筋から牙を抜いた永久が、じっとこちらを見つめて来る。
 どうしたのかと思いながら見つめ返すと、永久は何かを思いついた様な表情を浮かべ、ぽむっと手を打った。
 そして、何を思ったのか、自らの右腕の肉を食い千切ると、口に含んで咀嚼し始めたのである。
「何を……」
 何をしているのか、そう問い正そうと口を開いた瞬間、永久は自らの唇で私の口を塞いだ。
 口腔に流し込まれる唾液混じりの生肉。子供の柔らかさを多分に残したそれは、中々に美味であった。
 ……確かに美味ではあったが、永久の意図は全く読めない。
 口に入れられた永久の肉を全て飲み込むと、再び同じ物が口に流し込まれた。
 その後も、飲み込む度に次々と口移しで永久の肉を流し込まれる。
 結局、永久の右腕が完全に骨だけになるまでそれは続いた。

「どうしてこんな事をしたのですか?」
 右腕の肉がもう無い事に気付いて、次は左腕から肉を引き剥がそうとしている永久に尋ねる。
 すると、永久は頬を赤く染めながら口を開いた。
「えっと、その、何時も御主人様の血を頂いてばかりですから、たまには私を食べて頂こうと思って。その、もしかして、美味しくありませんでしたか?」
 可愛らしく首を傾げる永久。一瞬流されそうになったが、直ぐに気を取り直し……てはみたものの、良く考えると、流されても特に問題がないことに気付き、そのまま永久を抱きしめる。
「……吸っても良いですよ」
 先程あんな事を言った手前か、血を吸っても良いのかと迷っている様だったので、そう言ってあげた。
「はい、御主人様!」
 嬉しそうに牙を立てる永久。
 見ると、骨だけになっていた右腕は既に再生が始まっている。
 永久はつい先日、十二歳前後で成長が停止した頃から、それまでの魔力で不具合を補い、辛うじて命を繋ぐだけだった脆弱な身体から一転、異常な迄の不死性を獲得した。
 特に珍しい事でもないため、あまり気にしていなかったが、こう言った事が有るのならば良かったのかも知れない。
 いや、だからこそ、こんな事をしたのかも知れないが。
「あの、御主人様。もっと……、私を食べていただけませんか?」
 完全に右腕を再生させた永久が、瞳を期待に輝かせながら、そんな事を言った。
 どうにも誤解を招きそうな発言だ。
 ……いや、ただ単に、そちらの意味で食べられても構わないと、思っているだけなのかも知れない。
 以前から、そう言った誘いを幾度か受けているため、その可能性は高いだろう。
 あるいは、そちらの誘いを流し続けていた所為で、思いあまってこの様な行動に出たのだろうか?
「だめ……ですか?」
 可愛く首を傾げる永久に、ついつい彼女の提案に頷いてしまったのだった。

「あの……初めてなので、優しくして下さいね」
 眼前では、一糸まとわぬ姿の永久が、簡素な寝台の上に横たわり、頬を薄く朱に染めている。
 生きたまま身体を貪られる様な事が、そう何度も有るものかと言えれば良いのだが、噂程度にはそう言った事例を知っているから困る。
 いや、別に嘘をつけない訳では無いのだが。
「では、いきますよ?」
「はい、御主人様!」
 用意して置いた小振りの鉈で、永久の胸から股間に掛けてを正中線で切り開く。
「んっ……」
 永久は僅かに顔をしかめたが、直ぐに嬉しそうな微笑みを浮かべた。

 消化器や筋肉等、比較的当たり障りの無さそうな場所から食べていく。
「御主人様、お味は如何ですか?」
「中々に美味しいですよ。永久も少し如何ですか? 消化器が無くても、味わう位は出来るでしょう」
「はい、御主人様!」
 残っていた筋肉を一切れ、口移しで永久の口に運ぶ。
 特に麻酔や痛覚を麻痺させる魔法の類を使っていないにも関わらず、永久は痛がる素振りを見せ無い。
 前から痛みに強い子だとは思っていたが、まさかこれ程とは思わなかった。

「もう……産めないのですね。御主人様の子供」
 生殖器を食べ終えた後、こんな事を呟いた永久。
 明日になれば再生しているというのは、言わない方が良いのだろうか?
 余談だが、成長が停止する少し前に初潮が来たため、永久は一応だが自然妊娠が可能である。
 もっとも、強制的に排卵を引き起こす薬物や魔法も有るし、卵巣から直接卵子を採取して体外受精を行う事も可能なため、初潮前に成長が止まっていたとしても、大きな問題は無かったのだが。

 会話が出来る様に最後まで残して置いた呼吸器を食べると、頭部だけになった永久は嬉しそうに微笑んだ。
 今晩は永久の首を抱いて眠る事にした。明日には元通りに戻っているだろう。