チョコレート?(2009年バレンタイン)

「会長はん、会長はん」
 空間に開いた底無しの洞穴から、痩せこけた貧相な男が生えてきた。
「おや、今は何も頼んでいなかった筈ですが?」
 彼は、魔王協会販売部超時空通販課の宅配員。
 少々割高ではありますが、あらゆる世界のあらゆる物を取り揃えている上に、どんな場所であろうと宅配してくれるため、私もしばしば利用しています。
「いや、そうやなくて、永劫の姫はんからカカオ豆の大量注文があったんやが……」
「そう言えば、もうすぐバレンタインでしたね」
 その日に殉教したとされる某聖人に、これと言った思い入れはないが、永久が私のことを想って、チョコレートを作っていると思うと、思わず頬が緩む。
「ちょいまて! やっぱりそうなるんかい!」
「この時期にカカオとなると、他に考えられないでしょう?」
「いやいや! 普通、カカオ豆から作らんやろ!」
「他に居ない訳でもないでしょう?」
「居らんから!」
 ふむ、何人か心当たりがありますが……、他のルートを使っているのでしょう。

「もうええ……」
 そう呟くと、宅配員は穴の中へ消えていった。

 因みに。
「大好きです、御主人様!」
 そう言って手渡された、永久の形をしたチョコは、……何というか、生き血と生肉の味がしました……。

――ルーツ・永久・宅配員