どこまでも続く穏やかな草原に、一人の男が立っている。
流れるような白い髪、染み一つ見つからない同色の肌と、優しげな笑みを浮かべた紅の瞳。
随所に紅玉をあしらった純白のローブをまとって立つ彼の姿を見て、女と間違える者も少なくは無いだろう。
彼はしばらくの間、優雅な微笑みを浮かべて立っていたが、やがて一人の少女が駆け寄ってきた。
本来は作業着であるはずなのに、何処か優美な印象を与えるメイド服に身を包んだ少女は、男の側にたどり着くと、酷く陶酔した――蠱惑的とさえ呼べる、少女の幼い容貌には似つかわしくない表情を浮かべると、男に寄りかかる。
男が少女の髪を撫でると、少女は気持ちよさそうに喉を鳴らした。
男は、少女の髪の感触をしばし堪能すると、正面に向き直って口を開く。男の声は、春に吹く風の様に穏やかなものだった。
「魔王協会会長のルーツ=エンブリオ=ヘルロード=タンタロス十三世です。世界を滅ぼそうとして追い払われた魔王も、自らが使える神と道を違えた天使も、はたまた自信の存在意義に悩む少年や、私の命を狙う不届き者も、魔王協会は全てを受け入れます。興味のある方は最寄りの魔王協会支部まで」
そこで男が言葉を切ると、次は傍らの少女が口を開いた。
「魔王協会会長室広報部」
魔王協会と縁の深い世界で放送される、魔王協会のコマーシャル。
実の所、関係者に配布されるサンプル以外で見かける事は殆ど無いのだが……まあ、それはさておき、私と永久はそれの撮影をしていた訳である。
「さて、帰りましょうか」
「はい、御主人様!」
……それにしても、永久があの様な顔をする様になったのは何時頃からだっただろうか。