「成る程、確かに美幼女ばかりだな」
周囲の檻を見回して呟くレイたん。
その呟きの通り、檻の中の少女達は皆整った容姿をしている。
少女達は性別や外見年齢こそ統一されているものの、種族は様々だ。
人間が最も多く、何人かに一人の割合で下級の天使や魔族が混ざり、獣人や妖精族もちらほら見える。
「喜んでいただけて光栄ですわ。ここの娘達にはある程度の教養も仕込んであるので、侍女として買っていかれる方も多いのですよ」
性奴隷以外の用途も有ると語り、奴隷制度のイメージアップを計ると同時に購入を促す店長。
「成る程、確かに皆それなりに理知的な感じがするな」
もっともらしく頷きながら檻を眺めるレイたん。
彼女を見つめ返す奴隷達の顔には、僅かな困惑が浮かんでいた。
商品として扱われて品定めされる事には慣れていても、それを自分達と同じ年代の少女にされるとなると、流石に珍しいのだろう。
「ところで、奴隷を選ぶ時のコツの様な物は有るのか?」
そんな事を考えていると、奴隷達の檻から目を離して問いかけて来た。
「そうですね、基本的にはこう言った大きな店で買えば、初心者でも妙な物を掴まされる事は有りません」
少々割高ではあるものの、奴隷教育がしっかりしているため従順で癖がない。
「成る程、確かにそれは基本だな」
特に疑問の声を上げる事も無く頷くレイたん。
「後は、購入を決める前に話してみるのも良いでしょう。純粋な労働力として大量に買う場合はさて置き、身近に置いて置く様な奴隷の場合、気が合うかどうかはそこそこ重要です」
完全に道具として割り切る様な場合など、必須と言う訳でも無いが、剰りにも相性の悪い、近くにいるだけで気疲れや苛立ちを感じる様な奴隷を買ってしまうと、結局手放す事になる事が多い。
「あまり下手に出るのもどうかとは思うが……確かに近くに置くのなら気の合う相手の方が良いか」
レイたんはさほど重く受け止めてはいない様だが、相性というのは存外に重要だ。
……実際にそれで一人殺した事も有る。
「まあ、相性が良いか悪いかなど、少し話しただけで分かる様なものでも無いのですけどね」
それでも、明らかに反りが合わないと感じる場合は止めて置いた方が無難だ。
「まあ、それもそうか。それで、変わった奴隷が欲しいときはどうすれば良いのだ?」
どうやら、これが本題らしく、期待がこもった目で見つめなから聞いてくるレイたん。
……一体、どんな奴隷を買う気なのだろうか?
「何を買う気ですか……どんな物が欲しいかにも依りますが、自分の足でオークションや小規模店舗を探し回るしかないでしょう」
子供がそんな事をやっていると、逆に捕まって商品として並べられてしまう危険があるが……まあ、レイたんならば大丈夫だろう。
「いやいや、確かに正面から襲って来れば返り討ちに出来るし、そう易々と騙されたりもしないが……大丈夫そうだな」
また地の文を読んだらしい。
……私は別に気にしないが、実質、心を読んでいる様なもの。
気味悪がられたりはし無かったのだろうか?
「ん、心配してくれているのか? その辺りの加減は何故か昔から失敗した事が無いから安心してくれ。改めて思い返してみると、不思議を通り越して不気味でしかないのだが……まあ、困る訳でも無いから、そう言うものだと割り切っている」
……この手の異能の持ち主の中には妙に要領の良い者がいるが、どうやらレイたんもその類らしい。
「それはそうと、そろそろ口で喋ってくれないか? 独り言を言っているみたいで、段々恥ずかしくなって来た」
「ん? 嗚呼、すいません」
良く見ると店長が怪訝な目でレイたんを見ている。
「お詫びに、気に入った子がいれば買って上げましょう」
瞬間、奴隷の少女達が一斉にこちらを向いた。
同年代の少女の遊び相手と言うのは、彼女達にとってこれ以上を考えるのが難しい程に最良の待遇であるから、仕方ないと言えば仕方ないのだが、流石に少し怖い。
それでも、自分を選べと騒ぎ立てない辺りは教育の成果なのだろう。
「ん、そうだな……どの子も悪くは無いのだが、逆に強く引かれる子もいないのだ」
こう言った、上等だが最上級には届かない位のグレードの奴隷には割と良く言われる事だが、奴隷慣れしている訳でも無いのに、こんな感想が出て来るのは流石に珍しい。
「まあ、急いで決める事も有りません。他の所を見に行きましょうか?」
「ん、そうだな。適当に案内してくれ」
レイたんは私の言葉に頷くと、店長に案内を促す。
「はい、畏まりました。個性的な奴隷をお探しの様ですので、魔王・邪神コーナー等は如何でしょう?」
「何でも有りだな……構わんが」
店長の提案に、呆れ顔で首肯するレイたん。
「……永久、早く行きますよ」
「はえ? あ……はい、御主人様!」
奴隷の品定めに夢中になっていた永久の手を引いて、店長とレイたんの後を追う。
ある檻には異形の巨人。
或いは、巨大な甲虫をバラバラに分解して、さらにその部品を細切れにした物を人型に組み上げれば近い印象になるかも知れない。
漆黒の甲殻に覆われた巨大な体躯で奇妙な前傾姿勢を取り、顔の中央に鎮座する巨大な複眼を光らせる姿は、成る程、魔王や邪神と呼ばれるに相応しいだろう。
またある檻には可憐な少女。
奴隷用の簡素な貫頭衣に身を包みながらも凛と立つ姿は、王としての風格を備えている。
奴隷用の厳つい首輪が哀愁を誘う。
また別の檻には美貌の青年。
凄絶なまでの美貌を屈辱に歪め、こちらを睨みつけている。
「お兄さん、到底奴隷とは思えない連中が並んでいるのだが、大丈夫なのか?」
「隷属の魔法はかかっているので、取り敢えずいきなり襲いかかって来たりはしない……はずです」
極度に反抗的なせいで使い道は限られるが。
「これはこれで面白そうなのだが……保留、だな」
流石のレイたんも、彼等を即決で買うのは躊躇われるらしい。