レイたんに奴隷制度の解説をした次の日、私達は央都で最大手の奴隷販売店に来ていた。
広い店内には、奴隷が一人ずつ入った檻が並んでいる。
端に値札の付けられた檻は、手足を伸ばして寝るのに不自由しない程度の広さは有るものの、客が中の奴隷を見られるように、少なくとも一面は鉄格子か透明な壁になっている事も有り、矢張り何処か窮屈そうだ。
「矢っ張り、最近は作業用奴隷の値上がりが激しいですね」
「ここしばらく、この辺りでは大きな争いは有りませんでしたから。辺境世界から多少の供給は有るとは言え、どうしても絶対量が不足してしまうんですよ」
「外世界まで手を伸ばすとなると作業用奴隷では経費が洒落になりませんし……難しいものです」
「まあ、上級の愛玩用奴隷にはさほど影響は御座いませんから、ゆっくり見ていって下さいね」
「はい、そうさせてもらいます。……御主人様?」
店長の女性と世間話に興じる永久を眺めていると、私が側に居ない事に気付いたらしく、こちらに駆け寄って来る。
因みに、彼女は永久が売られていた時の世話役だったらしく、今でも顔を合わせると軽く世間話をする仲らしい。
「久々の友人との再会に水を差すのも悪いかと思いまして。――では、案内を頼めますか?」
永久の頭を撫でながら、店長に案内を頼む。
実の所、店内は相当に広いとは言え、この店には度々訪れている事も有って、私自身や永久は特に案内が必要と言う事も無いのだが、今日はレイたんの希望でここに来たのだ。
彼女がどんな物に興味を抱くのか良く分からないため、この店の事に詳しい彼女に案内して貰えば適切な助言が期待出来るだろうと言う思惑からだ。
「はい、まずは何時もの所で宜しいですか?」
営業スマイルを浮かべて尋ね返す店長。
長い栗色の髪が揺れる。
美女と言う程では無いにせよ整った顔立ちに、穏やかな笑みが浮かぶ様は――私の好みからは些か外れるにせよ――十分鑑賞に堪え得る。
「ええ、お願いします。レイたんも構いませんよね?」
物珍しそうに周囲を見回していたレイたんに聞く。
今日はレイたんの希望でここに来ている以上、他に気になる所が有るのならば、そちらから回った方が良いだろう。
「うむ、私もそれで構わない。こう言った場所に来るのは初めてで勝手が分からんからな、まずは何処でも良いから適当に見てみたい。お兄さんが何時もの所と言うと……幼女奴隷か?」
或いは男性奴隷の売場から回った方が良いかとも思ったが、レイたんからは特に文句も出なかったため、何時も通りに比較的幼い少女奴隷を並べた区画から回らせて貰う事にする。
「そうですね、その中でも比較的上質な物が並ぶ一角です。……とは言え、最上級の物は店頭で定価販売されるよりも、上客相手に直接紹介されたり、競りに掛けられたりする事が多いので、これから見に行くのはそれよりは一段階落ちる物と言う事になりますが」
因みに、永久の場合は競りに掛けられていた。
そのオークションの目玉商品で、結構な値が付いたとは言え、虚空ノ都などの先進世界に送らず現地で捌かれた辺り、最上級の評価を受けた訳でも無いのだろう。
当時の永久はまだ成長が止まっておらず、何処まで成長するか判断出来無かった点が大きくマイナスになったと見ている。
途中で成長が止まる種族の場合、何時成長が止まるのかが分からなければ評価がかなり落ちる。
もっとも、そう言った種族自体に人気があるため、それなりの値にはなるのだが。
「こうして見ていると、ペットショップを彷彿とさせるな」
目的の売場に向かって歩いていると、レイたんがそんな事を呟いた。
「扱う動物の顔触れが違うだけで、基本的には同じ様な商売ですからね。ここからだと、少し歩かなくてはいけませんが、犬や猫も主要な品種は一通りそろっておりますので、宜しければ後ほど御案内させて頂きます」
店長の答えを聞いて興味深そうな顔をするレイたん。
「成る程、割と本格的にペット扱いなのだな」
レイたんの反応を見て、店長は僅かな不安を滲ませながら問いかける。
「もしかして、御嬢様は奴隷が一般的では無い世界の御出身ですか?」
奴隷制度が一般的では無い世界の出身者には、奴隷商人と言う職業はあまり良い印象を持たれない事が多い。
「うむ、極めて悪辣な環境での労働を指して奴隷労働等と呼ぶ事は有っても、法制度としては無くなって久しいな」
そこまで言って、店長がどう言いくるめようかと考え始めたのを察したレイたんは慌てて付け加えた。
「嗚呼、変な目で見たりはしないから安心してくれ、自分の常識だけで異文化を貶すのは卑しい行為だからな」
レイたんの言葉にホッとした顔をする店長。
子供に悪し様に罵られるのは、それなりに堪えるのだろう。
「御嬢様が広い心の持ち主で助かりました。御嬢様の為に本日は張り切って御案内させて頂きますね」
「うむ、楽しみにしているぞ」
店長の言葉に頷くレイたん。
さて、そろそろ目当ての売り場に着く頃だろうか。