力を求める者02

 ジミーを滅ぼした半日後、私たちは町の前にたどり着いた。

「そう言えば、この町の名前は何て言うんですか?」
 私にもたれ掛かって首筋から血を吸っていた、濡れ羽色の髪を腰の辺りまで伸ばした、年の頃は十台前半に見えるメイド服の少女が、顔を上げて尋ねた。
「旧魔王協会軍第三特殊研究施設跡地です、第十二次最終戦争当時、魔王協会が人間ベースの生体兵器、要するに現在の超人の祖先たちの研究をしていた施設に人が集まっていつの間にか町になっていたのです。その成立過程からか、現在でも多くの超人が暮らしています。せっかく超人界に来たのですから、超人の多い町を選んでみました。分かりましたか、永久?」
「はい、御主人様!」
 笑顔で頷くと、再び私にもたれ掛かって血を吸い始めた。
 ……そう言えば、永久は一日に何リットル血を吸っているのでしょう……?
 以前行った検査の結果を見る限りでは、月に五百ミリリットル程度で十分なはずですが……。

 町で宿を取った私達は、馬車と黒騎士を宿に預け、早速観光に出掛ける事にした。
 この世界は、大戦の後遺症なのか、常に黒雲に覆われており、アルビノの私や、ダンピール(人間と吸血鬼のハーフ)の永久でも、日光を気にせず気軽に外出できる。
 ……大気中の有害物質は気になりますが。
「御主人様、何処へ行きましょうか?」
「この町に来たなら、まずは超人歴史博物館でしょう、戦中の研究施設を改修して利用していまして、時空系統の魔法で劣化を防止した試作段階の超人のサンプル等も見られるので、超人の歴史を簡単に学ぶことが出来ます」
「はい、御主人様!」
 うんうん、永久は良い子ですねえ……。
 ……素直すぎて、偶に不安ですが。

 町の最奥……、町の中心でありながら、あたかも町その物がそれを隠すために建てられたとでも言わんばかりに誰の目にも触れない場所に、その建物は建っていた。
 長年、酸性雨に打たれ続けて廃墟の様になってしまったが、それはかつて、魔に堕ちた者共の拠点であった……。

「あの、御主人様、これって?」
 永久の視線の先には、ここまでしてしまうと、むしろ自力歩行すら困難であろうと思われる程に筋肉が異常発達した、男性と思われる――人間の基本形を微妙に逸脱しているため断言ははばかられる――初期型超人の研究サンプルがあった。
「最初は、俊敏性や知性と言った他の要素を度外視してでも、筋力を極限まで上昇させた人間を作成していた様です。とは言え、今見ている物は実戦投入されなかったそうですが」
「はい、御主人様! さすがに動けそうにありませんしね」
 永久は納得して頷いた。
「その後、もう少し筋肉を落として歩けるようにした上で、中距離戦用の魔術兵器を内蔵した個体が前線に投入されました」
 次の展示物――先程よりは筋肉が落ちて何とか歩けそうな男性のサンプルと、胸部に内蔵するタイプの小型魔力銃――の前に移動しながら解説する。
「あの、御主人様、超人は元々白兵戦用ですよね?」
 永久がもっともな疑問を口にする。
「実は、その辺りはノリです。超人計画自体がノリと勢いだけで始まった物ですから。事務方も面白がって予算を振り込むものですから、報告が来る頃にはすっかり話が大きくなっていました」
「そのまま放っておいたのですか? 御主人様?」
 今日の永久は質問責めですね。
 ……事実、超人計画は魔王協会七不思議――確実に七つでは足りない気はしますが……――の一つに数えられる程の謎企画ですしね。
「報告があったときには、上から手を回しても手遅れなくらいに計画が進行していました。元々、魔王協会はそう言った体質の組織ですしね。現在でも出資の九割以上は用途不明金です」
「はい、御主人様!」
 ……どうでも良いですが、先程の説明で納得出来て良いものでしょうか?

「結局、高い筋力と、高い機動性を兼ね備え、量産性にも優れた個体が主流になったのですが、大戦末期には研究者が趣味に走りまくって、表面がオリハルコンの個体や、猫耳の生えた女性型等、異常にバラエティーに富んだ超人達が戦場を賑わせました。さて、そろそろ町に戻って美味しいものでも食べましょう」
「はい、御主人様!」
 とは言え、ここの名物となると、マンガ肉辺りになるのですよねえ……。
 野菜も四分の一ブッタ切りキャベツや、皮も剥いていない茹でただけの(場合によっては茹でてすらいない)芋ですし……。
 そう言えば、酒類以外の飲み物は有りましたっけ?
 まあ、たまには酔った永久と言うのも悪くは有りませんが。