力を求める者03

「この世界の名物となると、この辺りになって仕舞いますよね……」
 私達の前には、両端から骨が飛び出していて、それを持って食べられる様になっている、何の動物の物かよく分からない肉――所謂マンガ肉――と、得体の知れない植物のサラダに加えて、濁った安酒が並んでいた。
 さらに言えば、サラダに使われている植物は「人喰い草」と、そのままの名前が付いていて、食べられない事もないのだが、口に入れた瞬間に異常な苦みとエグみが広がり、食べ慣れていない限り嘔吐は必至だ。
「でも、これはこれで美味しいですよ! 御主人様!」
 そう言って、マンガ肉にかぶりつく、濡れ羽色の髪を腰まで伸ばして、メイド服に身を包んだ、一見十代前半に見える小柄な少女。
 野性的と表されそうな行動だが、この少女が行うと小動物じみた愛くるしさが感じられるから不思議だ。
「こちらのお酒とサラダはやめておきなさい、不味いですから。それと確か、それは人肉だったはずですよ。……まあ、永久は気にしないでしょうが」
「はい、御主人様!」
 少女――永久――は元気に答えた。
 ……ダンピール(人間と吸血鬼のハーフ)が人肉を食べると言うのは倫理的にはどうなのでしょうか?
 半分は人間ですから、問題と言えば問題でしょうし、もう半分は人間の血液を主食とする吸血鬼ですから、問題無いと言えば無いですし……。
 永久の笑顔を見ていると、そんな事はどうでも良くなってきました。
「食べ終えたら、市内を観光しましょう」
「はい、御主人様!」

「とは言ったものの、これと言った観光名所もありませんし……」
 観光をするとは言ったものの、この荒廃した世界にそうそう観光スポットが有るわけもなく、私は途方に暮れていた。
「歩いていれば、きっと何か見つかりますよ、御主人様!」
「そうですね、それにこう言った所では大抵怪しい組織が幅を利かせていたりしますし」
 その辺りを歩いていれば、何か妙な事件に巻き込まれるかもしれませんしね。

 そうして、永久と二人当てもなく歩いていると。
「御主人様、あれは何のお店ですか?」
 永久が指した店は、他の家屋や店舗の様に、廃材で組み立てられたバラックでは無く、レンガ造りのしっかりとした建物だった。
「あれは武器屋でしょう、この様な世界ですから武器の需要も多いはずですから、潤っているのでしょう。少し見ていきますか?」
「はい、御主人様!」

「ほほっ、いらっしゃいませ。おや、観光客の方ですか」
 店主は恰幅の良い、人の良さそうな人物だった。
 この様な世界で、この様な商人に出会える確率は低い。
 良い物が有れば買っていきましょう。
「ほほっ、そちらのお嬢様にはこれなど如何でしょうか」
 そう言って店主は、一振りの優美な短剣を手に取った。
「あ、綺麗です! どうでしょうか、御主人様?」
 どれどれ……。
「刀身は、なまくらですが、鞘と柄の装飾が素晴らしいですね、それに使われている魔石の質も申し分ない」
「これはお目が高い、それは大戦の折りに、ノイス砦をたった一人で陥落させたという、猫耳超人ミケが使ったと言われる剣の鞘と柄でして、刀身はその時に失われてしまいましたが、そちらのお嬢様にはぴったりかと」
 ふむ。
「永久が気に入ったのなら、買いましょうか?」
「はい、御主人様!」
「ほほっ、お買い上げありがとうございます。お支払いは五億グリムになります」
 この世界は、第十二次最終戦争の折り魔王協会の勢力範囲であったので、現在でもその影響で魔王協会公用通貨であるグリムが使用出来るので便利だ。
 とは言え、この様な額を現金で取り引きしてもかさばるだけなので、クレジットカードで支払いを済ませていると。
「ほほっ、御二方は大武会を見に来られたのですかな?」
「おや、そう言えばそんな時期でしたっけ?」
 大武会、別名超人王決定戦は、超人界全土から猛者の集まる魔王協会主催の武闘大会であり、超人界の貴重な観光資源でもある。
 ……折角ですし、参加してみましょうか?
「私にも何か武器、そうですね……、刀を見せて下さい」
「ほほっ、参加なさるので? それでは、これなど如何でしょう?」
 そう言って店主は、一振りの刀を差しだした。
 その刀は、相当な業物の様だった。
 さらに、刀身が高純度のミスリルで出来ているらしく、手に取っただけでも、私の魔力を吸収して淡く発光している。
「ほほっ、銘は夢幻、大戦前に打たれたそうですが、殆ど逸話が無く、刀工の名も知られていないという、正に夢幻の如き刀で御座います」
 第一次最終戦争で私が振るった神狩(かがり)や、カイルの持つ『根元故に無銘なる剣』に比べれば格は二つ三つ落ちて、『普通の伝説の武器』と言ったところですが、武闘大会で使うには、結局この辺りが丁度良いのです。
 それさえ有れば、素人でも神を殺せる様な刀を、大会で振り回しても仕方有りませんからね……。
「買いましょう」
「ほほっ、一兆グリムになります」

 さて、折角ですから永久や黒騎士にも参加してもらいましょうか?