力を求める者05

「御主人様……、血……、血を下さい……」
「どうぞ、好きなだけ御飲みなさい」
「ありがとう……ございます……。御主人様……!」
 血をねだる永久の腰に手を回し、所謂お姫様抱っこで抱き抱えると、私の首筋に牙を立てたまま眠ってしまった。
「ふにゅ」

 因みに、永久が試合で使った魔術は、血霧の領域と呼ばれるものであり、使い勝手は悪くはないものの、使用後に貧血で倒れると言うどうしようもない欠陥があり、記述開発が打ち切られた経緯がある。
 以前、半ば以上ジョークで教えましたが、まさか使うとは……。

 そして、宿へ帰る道すがら。
「どうしましたか? 人形遣い」
 何故かは知らないが、人形遣いが付いて来ていた。
「見つかり、ました、です」
 彼女は魔術による偽装を解くと、話を切り出した。
「御願いが、あります、です」

 彼女の話を要約すると、明日の決勝トーナメントがあっさり終わってしまうと、次回の参加者数や観客数に響くので、初戦はともかく、決勝や準決勝では適度に苦戦するふりをして欲しいというものだった。

「御願い、したいの、です」
「そうですねえ……、貴女が明日、猫耳付きスクール水着で司会をすると言うのならば、考えなくもありません」
 当然の事ながら、この言葉は冗談だったのですが……。
「了解、です。早速、用意します、です」
 人形遣いの姿が、かき消えた。
 そう言えば、年齢の割にかなり世間知らずでしたねえ……。

 翌日……。
「第二千三百六十二回大武会決勝トーナメントを、始めます、です」
 人形遣いは、昨日私が言った通りに、スクール水着(胸には白い名札が付いており、だいぶかいしかいにんぎょうつかいと書かれている)を着用して、頭には猫耳が揺れていた……。

「抽選の結果、第一試合はルーツ=エンブリオ=ヘルロード=タンタロス13世選手VSミーシャ選手の試合となりました!」
「試合、開始、です」
 ファランクスが力強く対戦カードを読み上げ、人形遣いが無表情に試合開始を告げる。

 巫女服(の様な物)に身を包んだ、猫耳の少女が刀を構えて立っている。
「ボクはミーシャ、猫耳超人ミケの末裔だよ、お兄さんは?」
 ふむ、猫耳のボクっ娘ですか……。
 取り敢えず、名乗り返しておきましょう。
「私はルーツ=エンブリオ=ヘルロード=タンタロス13世、魔王協会の会長です」
 念のために言っておくと、名乗らなければならないと言うルールない。
 ……両者の名前や経歴は、司会が解説する訳ですし。
「行くよ!」
 少女――ミーシャ――は地を蹴り、一瞬で間合いを詰めた。

 一閃。

 ミーシャの刀が、私を凪ぐ様に振るわれた。
 しかし、当然の事ながら、既にそこに私は居ない。
 私は、私と彼女の位置関係が最初から逆だった、と世界に誤認させて一瞬前まで彼女が立っていた場所に移動していた。
「ねえ、お兄さん、どんな手品を使ったの?」
 振り返ったミーシャが不思議そうに訪ねる。
 しかし、それには答えずに小さく「門よ」と呟いた。
 傍らに現れた人の頭程の黒い穴の様なものに手を入れて、彼女に尋ねる。
「所で、猫耳超人にはどうしようもない弱点があることを、知っていますか?」
 すると彼女は急に慌てだした。
「ち、ちょっと待ってお兄さん! そ、それは卑怯だよ!」
 私の言葉の意味が分かったようで、清々しい程の慌てぶりでしたが、そんな事は気にせずに。
「残念ながら、大武会にはその様な規定はありません」
 私は、笑いながら穴から「ある物」を取り出して彼女に投げた。

 そして、三十分後……。 「にゃー、マタタビにゃー!」
 ……猫耳超人の弱点、それはマタタビや猫じゃらしと言った物に対して、「猫耳娘ならこういう反応をするよね」と言った反応をしてしまうこと。
 ……第十二次最終戦争時、一部の敵拠点には猫耳超人対策のマタタビが常備されていたとか。
「さて、降参してくれませんか? この状況からスプラッタショーはご遠慮願いたい」
 大武会の勝敗は死亡、若しくは降参によってのみ決定されるので、このままでは彼女をなます切りにしなくてはならない。
「う、うん、降参だよ。ボ、ボク、お兄さんの子供なら産んでも良いから……」
 ミーシャは、はっとして起きあがると妙なことを言い始めた。
「あ、あの、ボクの一族には負けた人のものにならないといけないって言う掟があって、だ、だから愛人……、あるいは玩具でも良いから側に置いてくれないかな、っていきなりだよね」
 ミーシャは慌ててまくし立てる。
 先ほどまでマタタビによって転げ回っていたため、彼女の衣服は所々はだけていて、妙に艶っぽい。
 さて、どうしましょうか?