魔法少女永久02

「なるほど、支部長からの報告とも一致しますね」
「は、はい。あの、そろそろ縄を解いては……」
 ここは、魔王協会支部の応接室。
 何故か御主人様が、前回登場した天使――大きさから妖精の類かとも思いましたが、天使で間違いない様です――を縄で縛り上げて尋問しています。
「まあ、良いでしょう。……どのみち解いても逃げられませんし」
 尋問が終わったのか、(微妙に黒い事を言われながらも)天使の縄が解かれました。
「ひっ、こ、殺す気ですか!」
「それも良いですね」
 天使が、大袈裟に身を震わせます。
 そう言えば、どうして彼女は尋問されているのでしょう?
「御主人様、どうして彼女を尋問しているのですか?」
 御主人様は、私の方に振り向くと偶像の様に優しく慈悲深い笑みを浮かべながら言いました。
「実は、ただのノリです」
「はい、御主人様!」
 ノリでしたか。
「ノ、ノリって何ですか! ノリって! それに、永久ちゃんも何で納得してるんですか!」
 天使の少女――そう言えば、まだ名前を聞いていません――が大声でツッコミました。
 何かおかしな所があったのでしょうか?
「永久にその辺りを期待しても無駄ですよ? そもそも、魔法少女の選考基準の一つでもある『純粋である』と言うのは、裏返せば『人の話を信じやすい』と言う事でもありますから。特に、永久は私の言う事なら何でも無条件に信用する所がありますから……」
 御主人様が、どこか嘲る様に言いました。
「そ、そこまで単純じゃ……」
 ありません、と続ける前に、御主人様が割り込みました。
「永久、彼女は敵対勢力の刺客だから、殺してしまいなさい」
「あ、はい。では、手足の爪を一枚ずつ剥がして(以下検閲により削除)」
 御主人様の命を狙うなんて、考えつく限りに残酷な死を与えなくてはいけません!
「と、まあこの様に」
「な、なるほど……」
 天使の少女は、御主人様の言葉に納得して頷いた。
「はえ?」
 一体、何を納得したのでしょうか?
「永久は分からなくても良い事です」
「はい、御主人様!」
 御主人様が言うからには、私が理解出来なくても問題ないのでしょう。
「と言うわけで、あなた方の要求通り、永久を大魔界の霊体駆動式魔法生物、……あなた方が言う所の亡霊獣の駆除にお貸ししましょう。おや、どうしました?」
「い、いえ、この展開で了承していただけるとは思いませんでした。と言うか、永久ちゃんに確認を取らなくても良いのですか? そもそも、説明もしていませんよ?」
 御主人様が脈絡のない事を言ったかと思うと、どうやら先程尋問して聞き出した事への返答のようです。
 良く分かりませんが、亡霊獣と呼ばれていたモノ達を壊せば良いのでしょうか?
「確認するだけ無駄でしょう」
 御主人様は、ちらりと私に視線を向けると、信頼とも、落胆ともとれる表情で言いました。
「はい、御主人様!」
 御主人様が御望みなら、どんな事であろうと私に否はありません。
「……確かに、事後承諾で良さそうですね」
「でしょう?」
 何故か、先程も同じ様な事を言われていたような気がします。
 どうしてでしょうか?
「早速ですが、付近の海岸で霊体駆動式魔法生物が確認されました。駆除に行ってきなさい」
「はい、御主人様!」
 こうして、私は霊体駆動式魔法生物駆除を行う事になった。

「照準術式一番正常起動、誘導術式三番正常起動、加速術式二番正常起動。射出」
 照準術式と誘導術式によって制御された高電圧遊離気体――プラズマ――の火球は、巨大なタコを容易く焼き尽くしました。
「変身……、しないの?」
 天使の少女(未だに名前を聞いていない)が困惑した様に呟きました。
「はえ?」
 この世界では、戦闘時に変身するものなのでしょうか?
 答えは、海水浴客達が避難したビーチで一人くつろぐ、御主人様によってもたらされました。
「彼女が上司から受けた命令は『純粋な心を持った少女にプリティーバトンを託して、魔法少女として亡霊獣と戦わせる』ですから、変身せずに戦われると対面が悪いのでしょう」
「はい、御主人様!」
 どうやら、彼女にも事情があるよ
「ですから、次からは出来るだけあれを着てあげなさい」
「はい、御主人様!」
「確かにそうだけど、ぶっちゃけられると良い気はしないわね。と言うか、どうして貴方が付いて来ているのですか!」
「可愛い永久の初仕事、見に来ないわけにはいかないでしょう」
 どうやら、心配して下さった様です。
「ありがとう御座います、御主人様!」
「お、親馬鹿……」
 天使の少女は、疲れ果てたようにうなだれました。
 大丈夫でしょうか……?