「さて、ここまでノリと勢いだけで進めてしまいましたが、そろそろ永久にも事情を説明しましょう」
「はい、御主人様!」
私達は大魔界製霊体駆動式魔法生物を退けた後、魔法少女が人目を避けるのはお約束という御主人様の言葉に従って、転移魔術でこの喫茶店に移動しました。
因みに、天使の少女も、珍しく賛同してくれました。
「取り敢えず、自己紹介をしましょう。……ここに至るまで、一度も出来ませんでしたから」
「はい、御主人様!」
確かに、そろそろ彼女の名前を知りたいです。
「……あなたが強引に、話を進めたせいだと思いますけど……、まあ良いです。私はリズエル、偉大なる創世神様に仕える天使です」
固有名詞ではなく創世神と呼んでいる所を見ると、神威連合の神ではなく、この世界土着の神なのでしょう。
「私はルーツ=エンブリオ=ヘルロード=タンタロス十三世、世界間組織魔王協会の会長をしています。ほら、永久も」
「はい、御主人様! 私は永久=桜乃小路=アイオーン、御主人様の愛玩用奴隷です」
「…………」
「…………」
何故か、二人とも固まってしまいました。
「ま、まあ、間違ってはいませんが……」
「へ、変態! 愛玩用って、要するに……、その……」
何故か、御主人様は額に手を当ててため息をつき、リズエルは御主人様に罵声をあびせてゴニョゴニョと黙り込んでしまいました。
二人とも、どうしたのでしょうか?
「永久、愛玩用奴隷と言った場合、暗に性奴の意味を含んでいて……。いえ、面倒です。早く本題に入りましょう。リズエル、貴女も落ち着きなさい」
「なっ! 確かに、本人達が納得してるなら、他人がとやかく言うべきではないのでしょうけど……」
自己完結しているリズエルを余所目に、御主人様はポツリと呟きました。
「……念のために言っておきますが、手は出していませんよ?」
「この世界は、神威連合・大魔界・魔王協会の丁度中間地点にあって、悠久図書館条約によって三大勢力の直接衝突を避けるための緩衝地帯に指定されていました。今回の事件の大枠は、条約を破ってこの世界に侵略を行った大魔界に対して、現地勢力が抵抗を行っていると言うだけの事なのです。本来であれば、魔王協会に所属する私達が表だって介入する事は望ましくないのですが、彼らのとった手段が魔法少女の選出による外部勢力――大魔界――の排除であり、永久がその魔法少女に選ばれてしまったため、ビフレスト条約――通称、物語条約――に従って、永久を現地勢力に貸し出さざるをえなくなってしまいました。何か理由を付けて神威連合も介入するでしょうし……。遠からず戦争になりますね……」
一気に語り終えた御主人様は、紅茶を口に運びました。
「えっと、戦争……?」
そう呟いたのはリズエル。
「はい、小競り合いで終わる様に手は回しますが……。最悪の場合も想定はしておいて下さい」
御主人様は、再び紅茶を口に含むと、私の方に視線を移しました。
「それと永久、リズエルから渡された変身用アイテムを貸しなさい。改造します」
「はい、御主人様!」
御主人様の言葉に従って、プリティーバトンを差し出しました。
「あ、やっぱり光属性の術式だと……」
リズエルは、私と魔装具の属性の不一致を心配してくれた様です。
確かに、私がダンピール(人間と吸血鬼のハーフ)である以上、光属性の魔術を使用すると少なからず副作用が発生しますが、決して耐えられない様なものではありません。
それよりもむしろ……。
「いえ、それも無いではありませんが、ミニスカートだと何故か転ぶのです」
「…………」
何時も丈の長いスカートをはいているので、ミニスカートだと歩きづらいのですが……。
そんなにおかしな事なのでしょうか?
「恐らくは、歩行訓練時にロングスカートを用いたことが原因なのでしょうが……。しかし、水着は大丈夫ですし……」
御主人様も、明後日の方向を向いてぶつぶつと呟いています。
やはり、ミニスカートよりもロングドレスの方が歩きやすいというのは、おかしな事なのでしょうか?
「それで、どうして貴女がここに居るのですか? ……いえ、やはり答えなくても結構です。どうせ、魔法少女の自宅に居候する予定で、宿泊場所の手配をしていないのでしょう」
ここは、魔王境界支部の一室、私達の滞在用にあてがわれた部屋です。喫茶店での会話の後リズエルは、何故か私達に付いて来ていました。
「し、仕方ないでしょう! 魔王協会の様な大組織と違って、私達の所は財政難なのですから!」
でも、いくらお金がなくても、普通は派遣先での生活保証くらいしますよね?
「仕方がありませんね……」
御主人様は、こめかみを押さえると内線をかけました。
「支部長、私です。空いている部屋はありますよね? ……いえ、そこで構いません」
御主人様は電話を切ると、リズエルに言いました。
「リズエル、支部長に部屋を用意させました。しばらくすれば案内が来るので、ついて行きなさい」
「え? あ、ありがとう。……まさか、永久ちゃんといちゃいちゃするのに」
何か言おうとしたリズエルですが、言い終わる前に案内の人(何故か全身黒尽くめ)に連れて行かれました。