「そう言えば、永久ちゃんの魔法は、やっぱりタンタロス会長から教わったの?」
「はい、一般教養の一環として教わりました」
その瞬間、リズエルは引きつった笑いを浮かべました。
「……魔法って、一般教養?」
「三級でも、取っておくと何かと便利らしいですよ?」
収納用異相空間から、基礎魔法検定三級の合格証を取り出す。
魔術・魔法技能者は多くの世界で優遇されます。
「……人選を間違えた気がするわ」
リズエルは沈痛な面持ちで呟くと、顔を伏ました。
「永久様! リズエル特使! 一大事です!」
リズエルと話し始めてしばらく経った頃、血相を変えた支部長が飛び込んできました。
「大魔界の魔法生物どもに包囲されています!」
支部長の言葉を聞いて窓から外を見てみると、地上には大魔界の霊体駆動式魔法生物がひしめいていました。
「嗚呼、どうして会長が留守の時に! このままでは、このままでは、責任をとらされてしまう! はっ! 永久様とリズエル特使に押し付ければ……」
……支部長は自分の保身しか考えていない様です。とは言え、近隣常民への避難勧告や、非戦闘員の待避等、マニュアルに沿った適切な対応は中々に見事なものです。
「行くわよ! 永久ちゃん!」
そんな支部長を気にした様子もなく、リズエルは私の手を引きます。
……わざわざ出て行かなくても、ここから魔法で砲撃すればいいのではないでしょうか?
そんな事を考えながらも、リズエルに引かれるままに戦場に向かうのでした。
「来たわね、魔法少女永久!」
……何故か魔法生物の一体――大型の亀の様な個体――の上に、十代前半の少女が立っています。
「私は魔法少女小夜! あなたに恨みはないけど、お母さんのために死んで貰うわ!」
名乗りを上げる少女。
露出の多い黒の革服は似合っていませんが、よく見ると目鼻立ちの整った、清楚な印象の少女です。
捕まえて調教したら、御主人様に悦んで貰えるでしょうか?
「……ねえ、永久ちゃん? 今、危ない事を考えてなかった?」
そんな事を考えていると、リズエルが声をかけてきました。
「はえ?」
何の事でしょうか?
「…………」
「ホーリーナイトメア!」
放たれる、光と闇の複合魔術。
……どうして、連れてきた魔法生物を使わないのでしょう?
「障壁術式一番」
展開した魔術障壁は、小夜さんの放った攻撃魔術を容易く防ぎきります。
「くっ! ホーリーナイトメア! ホーリーナイトメア! ホーリーナイトメア!」
乱打される攻撃魔術を、魔術障壁で受け止める。
私が一般教養程度の魔術しか身につけていないと言っても、素人同然の相手に押し負ける事はありません。
「ええい! 突撃!」
小夜さんは遂にしびれを切らしたのか、魔法生物達に突撃を命じました。
「ねえ、永久ちゃん。今更だけど、どうにか出来る?」
「いえ、無理です」
リズエルの言葉に首を振る。
「でも、きっと誰かが助けてくれますよ。確か、そう書いてありました」
ビフレフト条約にそんな規定があったはずです。
「書いてあったって……」
その時、何処かから謎のテーマソングが流れてきました。
「あっ! 来ましたよ!」
「この世に闇が蔓延る時!」
「空の彼方より現れて!」
「邪悪な闇を打ち払う!」
何処かで聞いた事が有りそうな、ベタな決め台詞を高らかに歌い上げて、彼らは姿を表しました。
「トウッ!」
「邪悪を焼き尽くす灼熱の炎! セイントレッド!」
「邪悪を押し流す清らかなる流れ! セイントブルー!」
「邪悪を打ち砕く黄金の鉄槌! セイントイエロー!」
「邪悪を清める優しき心! セイントピンク!」
「邪悪を飲み込む暗き深淵! セイントブラック!」
色違いの全身タイツとヘルメットを身につけた五人組は、それぞれにポーズをとると、全員で声を揃えて名乗りをあげました。
「五人揃って! 破邪戦隊セイントレンジャー!」
「……ねえ、あれなに?」
「たぶん、神威連合からの援軍だと思います。……たぶん」
怪奇極まりない服装の五人組には、閉口せざるを得ません。
「フレイムソード!」
「セイントスマッシュ!」
「煮干し斬りにゃ!」
「ディィィィィクゥゥゥショォォォヌァァァゥィィィィィ(ディクショナリー)」
セイントブルー以外の四人が魔法生物達に突撃していきます。
どこかで聞いた声が混ざっていたような気がするのは、気のせいでしょうか?